取材した人:大野木聡子
トライアスロンの中で最も過酷なロングディスタンス、そのなかでも世界最高峰のレースがスイム3.8km、バイク180.2km、ラン42.2kmで競うアイアンマンシリーズだ。そのアイアイマンシリーズでの日本唯一の大会が、昨年に引き続き北海道洞爺湖をメイン会場にして開催された。
北海道南西部に位置する洞爺湖町は、2008年に開かれた「第34回主要国首脳会談」、通称「北海道洞爺湖サミット」の会場となった場所。リゾート地としても有名で、毎年多くの観光客が訪れる。この洞爺湖町をはじめとする、九つの町村を舞台にしてアイアンマン・ジャパン北海道大会が開催される。
洞爺湖は集結したトライアスリートは1,345人。8月21日(木)~23日(土)までは洞爺湖文化センターにてEXPOが開催され、アイアンマンストアや各メーカーのブースが会場を賑わせる。過酷なレースを控えた選手はレースに必要な物品を補充や興味ある製品の試用、記念グッズの購入などをしていた。
22日(金)は洞爺湖文化センターにて選手登録と競技説明会を実施。説明会に望む選手は緊張した面持ちである。なかには、緊張とともに初めてのアイアンマン挑戦に不安そうな表情を浮かべた選手もいれば、翌々週開催される佐渡のロングディスタンスのレースにも出場するというツワモノの姿もあった。
レース前日の23日(土)は、落ち着かない様子の選手があちこちでバイクに乗ったりランニングしている姿が朝から見られた。午後にはスイム会場での試泳が許可され、多くの選手が洞爺湖でスイムの調整を行った。日が傾いてくると選手の姿はまばらになり、会場はさながら嵐の前の静けさ。そして明日の早朝にはここに活気が戻ってくる。
24日(日)午前5時、朝焼けが残る洞爺湖の浜辺でスイムアップが開始された。本州の8月下旬といえばまだまだ残暑が厳しい時期だが、北海道は秋の気配を感じる涼しさ。気になる水温は、21度とやや冷たい。会場では、笑い声や選手同士がお互いを励ましあう声があちこちから聞こえ、これから全長226kmにも及ぶレースが始まるというのに、重々しい雰囲気はまったく感じられない。
午前6時、もっとも「過酷」なレース、アイアンマンがスタート。MCを務める白戸太朗氏の合図で雄叫びを上げた選手たちは、士気を高めて陸地からは見えないほど遠くへどんどん泳いでいく。
洞爺湖で行われるスイムは、三角を描くようなコースを1周半泳ぐ。波はなく、流れもあまりないため、比較的泳ぎやすい。ただし、洞爺湖は淡水のため、海よりも浮かばず、水を飲んでしまっても塩辛くない。そんな淡水湖ならではの体験ができるのもこのコースの魅力だ。
スイムアップした後、選手たちはトランジションからバイクで出ていく。バイクは洞爺湖に沿って北上しながら半周してから、9つの町村を通って大きく1周回、そしてまた洞爺湖に沿って帰ってくる180.2kmのコース。フラットな洞爺湖沿いの道を、景色を楽しみながら半周、ここまではみな順調だ。ここから先はアップダウンを繰り返す、厳しく孤独な旅が待っている。とはいえ、沿道から声をかけてくれる地元の人々やエイドスタッフが力をくれるのだ。
洞爺湖まで帰ってくると、あとはランを残すのみだが、まだまだ戦いは終わらない。ランは洞爺湖沿いの道を壮大な景色を見ながら(ただし明るいうちにランをスタートできた選手のみであるが)10kmの道を2往復し、42.2kmを走る。昨年この大会を走ったある選手は、バイクが終わった瞬間「やっと終わった。あとは走るだけだ」と思ったそうだ。残りのフルマラソンを残して終わりを意識するなんて、未経験者には想像がつかない。これまでの道のりの厳しさを思わせる一言である。
続々とバイクを終えた選手がランを始めたころには日が沈みかかっていた。時折、雨がパラついて選手の体力を奪う。それでもアイアンマンの称号を得るためには、ゴールに向かうしかない。
午後8時30分、恒例の洞爺湖ロングラン花火が上がり始め、大会に花を添える。最後の花道では、フィニッシュした選手や選手の家族、チームの仲間が戦いの勝利に拍手を送る。フィニッシュゲートをくぐると同時に倒れ込んでしまい動けなくなる選手、ゴールを見守ってくれていた恋人や家族と抱き合う選手など、それぞれの戦いを制した約1500人ものアイアンマンが誕生する瞬間は、とても感動的なシーンだ。
レースを終えた25日(月)、アイアンマンの朝は早い。前日、あれだけの距離を泳いで走ったにもかかわらず、選手たちは平気な様子でバイクを回収して洗車している。たまに、筋肉痛のため歩き方がおかしい選手もちらほら。
バイク回収の後は、フィニッシュ会場でアフターパーティーが開催された。昨年よりもさらにグレードアップした素晴らしい会場で、ランチに町村の特産品が用意され、選手たちはおなかいっぱいにほお張っていた。
トライアスロンスタイル編集部のニューフェイス。
2014年、トライアスロンに初チャレンジ!!!